新卒こそビーズの家で働いてほしい — 「在宅は経験を積んでから」という常識について

こんにちは。ホスピス住宅ビーズの家、ケアマネジメント室の落合実です。

「訪問看護や在宅の現場は、病院で経験を積んでから」。
看護学生さんや新卒の看護師さんと話していると、この言葉をよく耳にします。
学校の先生から、先輩から、あるいは求人票の「経験3年以上」という文字から、そう教わってきた方が多いのだと思います。

今日はその「常識」に、少しだけ異を唱えたいと思います。
私は、新卒の方にこそビーズの家で働いてほしいと本気で思っています。
その理由を、順番にお話しします。

在宅は新卒には無理?

まず、よくある思い込みの話から。

高度な医療を24時間365日支えている大学病院の病棟には、新卒の看護師がたくさんいます。
一方で、在宅にいるのは「家に帰ってよいと判断された方」か「家で過ごすと覚悟を決めた方」です。
それなのに、なぜか在宅は「40代のベテランでないと務まらない」と言われる。

私はこれを、長い時間をかけてつくられてきた「神話」のようなものだと思っています。

「在宅は一人で訪問するから不安」という声もよく聞きます。
けれど、病院でもベッドサイドに立つのは一人です。何かあれば相談し、急変すれば応援を呼ぶ。その構造は、病院でも在宅でも変わりません。

もちろん、病院で身につく経験は大きな財産です。それを否定するつもりはまったくありません。
ただ、「病院を経てからでないと在宅に来てはいけない」という順番だけは、決まりごとではないと思っています。

業界は、新卒の訪問看護師を歓迎しています

「新卒で在宅」は、私一人の思いつきではありません。

日本看護協会・全国訪問看護事業協会・日本訪問看護財団の3団体がまとめた「訪問看護アクションプラン2025」には、訪問看護師を安定して確保するための柱の一つとして「新卒看護師の確保」がはっきり書かれています。
全国訪問看護事業協会は、新卒の訪問看護師を地域で育てるためのガイドや、「新卒訪問看護師を育てたいと考えている人へ」というキャリア支援の手引きも公開しています。

各県の看護協会も、この数年で動き始めました。
北海道看護協会は「新卒訪問看護師 採用・育成ガイドライン」を、広島県看護協会は「新卒等訪問看護師育成マニュアル」と、教える側のための「指導者育成プログラム」をつくっています。兵庫県看護協会は、2年かけて自律した訪問看護師を育てる「新卒訪問看護師育成プログラム」を整えました。
大阪府や東京都では、新卒・新任の訪問看護師を雇って育てる事業所に、育成にかかる費用の補助まで出ています。

私たちのいる福岡県でも、県の委託事業として福岡県看護協会(福岡県ナースセンター)が「訪問看護師養成講習会」を開いています。
訪問看護に興味がある方向けの入門編、従事して3年未満の方やこれから従事する予定の方向けの新任期コース。新卒の方が事業所の外でも基礎を学べる場が、すでに用意されています。

そして国も動いています。
厚生労働省は2026年6月、2040年に向けた看護職員の確保を考える検討会で、訪問看護の人材確保の難しさを取り上げました。
訪問看護ステーションの有効求人倍率は4.54倍。25歳未満の若い看護師の就業先は、9割が病院です。
その上で、「新人看護師研修の中に療養者の暮らしに関わる機会を設け、新人でも従事できる研修体制を整備することを検討する」という方向が示されました。

「在宅は経験を積んでから」という常識は、業界の側からも、国の側からも、少しずつ書き換えられ始めています。

病院のベッドは減り、「家」で過ごす人は増えていきます

なぜ、これほど新卒に期待が集まっているのか。
背景には、これからの日本の医療の姿があります。

国の「地域医療構想」のもとで、病院の病床は2015年の約125万床から、2023年には約119万床まで減りました。
入院が必要な方を約30万床分、在宅医療や介護施設で受け止める方向に移していく取り組みは、おおむね達成したとされています。
そして次の目標は2040年です。85歳以上の方の在宅医療の需要は、2020年と比べて62%増える見込みです。
国は、病院を「治す医療」と「治し支える医療」に役割分担し、大半の地域で在宅医療と訪問看護が増えていく、と見通しています。

訪問看護ステーションの数は、この10年で約2倍になりました。それでも、亡くなる場所は今も6割以上が病院で、自宅は2割弱、老人ホームは1割ほどです。
「最期まで家で」と願う方に対して、それを支える手は、まだまだ足りていません。

ここまでは制度の話ですが、私にとっては目の前の話でもあります。

ビーズの家には、「退院してください」と言われて行き先に困ったご家族から、毎週のようにご相談があります。
がんの終末期の方、人工呼吸器をつけた神経難病の方。病院にはいられない、でも自宅では支えきれない。
その方たちを「家」でお迎えするには、看護師と介護士の手が要ります。
お受けしたくても、スタッフの数でお受けしきれない場面は、私たちの現場にも実際にあります。

新卒のあなたを待っているのは、私たちだけではありません。「家」で暮らしたいと願っている方が、もう待っています。

病院を経てから来る方が、最初に取り組むこと

ビーズの家には、病院での経験を積んでから来られる方がたくさんいます。
その方たちが最初に取り組むのは、意外にも「病院で身につけた正しさを、いったん横に置くこと」です。

病院では、疾患に対して最善の治療を考えることが「正しさ」です。
けれど「家」では、ご本人が何を望むかが出発点になります。

誤嚥のリスクがあっても食べたいものを食べたい。
転びそうでも自分の足で歩きたい。
そういう願いに対して、「安全のために管理する」のではなく、「ご本人の決定を支える」側に立ちます。

これは、病院の看護が間違っているという話ではありません。病院と在宅は、サッカーと野球を球技とくくることが大きすぎるくらいルールが違う、という話です。優秀な方ほど、病院で身につけた正しさを一度ほどく作業に時間がかかることがあります。

新卒の方には、ほどくものがまだありません。「家」の考え方を、最初から自分の看護の土台にできる。
これは、新卒の方だけが持っている強みだと私は思っています。

「在宅だけど、一人じゃない」

とはいえ、「いきなり一人で訪問するのは怖い」という気持ちは、とても自然なものです。

ビーズの家は、住宅型有料老人ホームに訪問看護と訪問介護が併設された「家」です。
訪問看護といっても、同じ建物の中に看護師も介護士も、施設長も、いつもいます。
迷ったとき、すぐ隣に相談できる仲間がいる。24時間の看護・介護体制があり、夜間も一人きりになることはありません。

在宅で働きたい。でも一人で訪問するのはまだ不安。そんな方にとって、「在宅だけど一人じゃない」この環境は、いちばん最初の職場としてちょうどよいのではないかと思っています。

ビーズの家の勤務風景

「看護技術が身につかないのでは」という心配について

新卒の方やそのご家族から、「在宅に行くと看護技術が身につかないのでは」と心配される声もあります。

ビーズの家には、医療用麻薬による痛みのケア、人工呼吸器、気管切開のカニューレ管理、経管栄養、輸血や抗がん剤の対応まで、幅広い医療処置を必要とする方がお住まいです。がんの終末期の方も、神経難病の方もいらっしゃいます。

技術を学ぶ機会は、決して少なくありません。
むしろ、その処置が「その方の暮らし」の中でどんな意味を持つのかまで含めて学べるのが、この場所の特徴だと思っています。

一年以上かけて、ゆっくり育っていく

新卒の方をお迎えするにあたって、私たちが用意しているものをいくつかご紹介します。

入職時にお渡しする『オリエンBOOK』は、入社から1年までの「やること」「相談先」「成長の記録」を1冊にまとめた新人専用のガイドです。
1日目、2日目、15日目、30日目、半年、1年と節目ごとに集合研修があり、その間は先輩が並走します。
入職から2週間は毎日「デイリー共有シート」で、今日できたこと・学んだこと・迷ったことを言葉にし、その日のうちに不安をほどきます。

研修責任者としての私の考えは、「焦らなくて大丈夫。少しずつ、確実に」です。
「即戦力」という言葉は、新卒の方には使いません。

正直に申し上げると、私たちの新人教育もまだ発展途上です。ビーズの家は立ち上がって数年の組織で、試行錯誤の途中にあります。それでも、新しく来てくださる方を法人全体で支える体制を、毎年少しずつ良くしてきました。

参考記事:ホスピス住宅ビーズの家の新人教育で大切にしていること

私たちが求めているのは、「スーパースター」ではありません

最後に、どんな方に来てほしいかをお伝えします。

私たちが大切にしているのは、一人のスーパースターの看護ではなく、「みんなでやれる一番いい看護」です。
誰か一人にしかできないケアより、誰が入っても最低限のケアが届く。そのための仕組みとチームを大事にしています。

だから、経験や能力の高さを入り口で求めることはしていません。
やる気と思いがあって、自分をちゃんと守れる人。
ご本人の主体性を奪わずに、そのために自分の専門性を育て、現場で使える人。
私がよく使う言葉で言えば、「意識は低く、専門性は高く」。気負いすぎず、けれど専門職としての学びは手放さない。
そういう構えでいられる方なら、新卒であることはまったく問題になりません。

その人の暮らしの隣にいる看護

「在宅は経験を積んでから」という常識は、今も根強くあります。それを選ぶことも、もちろん正しい選択です。

ただ、もしあなたが「最初から、その人の暮らしの隣にいる看護がしたい」と思っているなら、ビーズの家はその出発点になれると思っています。
看護師だけでなく、介護職として社会に出る方も同じです。
そして、あなたが来てくれるのを待っている方が、この家にも、この地域にも、すでにいます。

応募を決めていなくても、「少し見てみたい」だけでも大丈夫です。
ぜひご興味のある方は、見学にいつでもお越しください。

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この記事の執筆者:落合 実(看護師/ホスピス住宅ビーズの家ケアマネジメント室)

株式会社beads 取締役 / 株式会社 i & i 代表取締役
都内大学病院、訪問看護ステーションにて看護に従事。緩和ケア認定看護師教育課程修了後に都内にて訪問看護ステーションを共同創業。
2019年、福岡市内にUターン移住し訪問看護ステーションを新たに創業。2022年、株式会社beadsの取締役就任。ホスピス住宅ビーズの家にてケアマネジメント室を立ち上げ、スタッフの教育やケアの質管理に携わる。

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